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「殺せ、殺せ」の大合唱

今週はいくつか取材と原稿書きでバタバタ。来月発売の月刊「世界」(岩波書店)に掲載する予定のイラク関係の原稿の締め切りが今日だった。編集者には内緒だが(?)、実はまだ一行も書けていない。頭の中ではすでに「構成」「執筆」しているけれども。

こんなブログ書いている場合じゃないが、でもやっぱり忘れないうち、いまのうちに書いておこう。

きょう20日(火)は、サマワの自衛隊撤退が発表されるようだ。これはこれでまた今度あらためて書くとして(注-以前「撤退から始まる次の自衛隊海外派遣」という原稿を「DAYS JAPAN」に書いたhttp://www.daysjapan.net/dj/bknm/200604.html)、夜のニュースで恐らく大きく扱われるであろう山口・光の母子殺害事件の最高裁判決も今日言い渡される。
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/yamaguchi_hikari_murder/?1150784047

昨日、安田好弘弁護士の話を聞く機会が東京都内であった。以前このブログでも書いたし、http://blog.so-net.ne.jp/watai/2006-05-09 これまで何度か本人が公の場でも話されているが、やはりマスメディアを通じて扱われる彼の主張・言い分の「一部分」と、実際の彼の主張・言い分の「本質」とには大きく開きがあるようだ。

それは別に安田弁護士だけではない。もう一方ともいえる、被害者の夫・父親である本村洋さんの主張・言い分もまた同じように思えてきたりもする。

例えば以下のような新聞記事がある。
2006.06.17 読売新聞(夕刊)
山口・光の母子殺害 「命をもって償って」 夫、7年2か月苦悩 20日に判決
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060617i204.htm

メディアの報道では、殺人事件の被害者の遺族のコメント・談話で、「犯人を死刑にしてほしい」「極刑を望みます」という一部分だけが大きく扱われることが多い。だが、本当にその部分が「被害者がいちばん望んでいること」なのだろうか?

それを知るために非常に理解しやすい本があるので、ぜひ読んでみてほしい。「〈犯罪被害者〉が報道を変える」高橋シズエ・河原理子編(岩波書店)だ。http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/9/0244290.html 地下鉄サリン事件で夫を亡くした高橋さんと、朝日新聞記者の河原さんが「犯罪被害者の話を聴く勉強会」を続ける中でまとめた本だが、この中で先の本村さんはこう語っている。

「例えば私は、被害者の権利確立を目的に発言や活動をしてきたつもりです。一方で、加害者には極刑を望んでいますが、それは被害者としての単純な感情によるもので、厳罰化・死刑推進運動をしているわけではありません。死刑制度を考えるきっかけになればいいと思って取材には応じるようにしていますが、被害者の状況を懸命に話しても、死刑にまつわる応報感情ばかりを採り上げられる場合が多いです。」

「死刑にまつわる応報感情」の部分とは、殺人事件の被害に遭った遺族たちの談話・コメントとして最もメディアで扱われやすい部分だと思うが、それはいまや何も遺族だけに限らない。

昨日の安田弁護士の話では、前回の弁論を欠席した際(この「欠席した」という部分だけが大きく扱われた)には一日100件以上の電話が来たそうだが、その内容のほとんどは「弁護は不要だ」「死刑にすべきだ」という内容だったという。これに対して彼は、「電話の向こう側から『殺せ、殺せ』という大合唱が聞こえてくるようだ。『許せない』ではなくて、『殺せ』という精神的な共謀感なのか。世の中が殺せ、殺せという動きの中で、司法がちゃんと機能するのかが問われている。明日は裁判という名の『リンチ』が起こる」と話していた。

「被害者の救済・保護・支援と、加害者への刑罰の重さの違い」「被害者の人権と、加害者の人権を対比させるような動き」「被害者の遺族がいるか、いないかによって量刑が変わるのは正当なのか?」「判決が今後の『裁判員制度』http://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/に与える影響」など、彼は様々な問題提起を昨日していたが、そうした部分はきょうのメディアの「最高裁判決」のニュースの中では恐らく伝えられないだろう。

イラク戦争に反対した人、自衛隊派遣に反対している人、いまの憲法改正に反対している人にも聞いてみたいが、本当に「弁護は不要だ」「死刑にすべきだ」でいいの? 「誰かの被害の側に立つことで、誰かをまた殺す側にも立つ」ということは両立するのだろうか?それってアメリカの大統領やアルカイダがやっていることと同じじゃないの? 「人を殺した奴は、さっさと殺してしまえ」のルールで人間の社会はOKなのか? 「殺せ、殺せ」の大合唱の中に、自分もひょっとして入っていないだろうか…

読売新聞の引用を先にしたが、同じ新聞からこんな角度の記事もあるので参考まで。
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_top/051016_4.htm

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2006-06-20 05:50 

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