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【3月21日=続・戦火のバグダッドから その11】

午後8時、今夜もここパレスチナホテルのレストランには誰もいない。従業員3人が暇そうにテレビのニュースを見ているだけだ。同じメニューを一日置きに繰り返して、昨日はボロネーズ・スパゲッティ。今日はシシケバブ、フライドポテト、小麦粉を練ったパンを一人でぼそぼそかじりながらふと思う。

この状況でバグダッドに一人で入って取材することの意味は何だろうか。バグダッドに入っても以前のように自分であちこち回って取材・撮影ということができない中、ここにいることの意味は何か?

英国の衛星放送「BBCワールド」がホテルの部屋のテレビで映るが、今年の開戦4周年特集はバグダッドのほかに英軍が駐留しているバスラや中部のラマディから従軍取材で、ほかに北部のアルビルから盛んにリポートをしていた。ヨルダンやシリアなどから含め、ライブ中継の箇所は依然として多いが、内容は英軍兵士や国外に逃れたイラク人難民・避難民の状況などが中心で、やはりバグダッド周辺での映像は少ない。

爆弾事件が起きた直後の映像は、今でもロイターやAPなどの外国通信社を通じていつでも世界中のテレビに流れるが、その前後で何が起きているのか、病院や学校などの映像も極めて少なくなった。アラブ系メディアも含め、バグダッドに常駐している大手メディアでさえも、バグダッドで何が起きているのか、時間をゆっくりかけて人や家族を追う取材が困難になったことを示している。

ヨルダンやシリアなどの周辺国、イラク北部のクルド自治区、そして最近は東南アジアのマレーシアあたりまで、イラク人難民があちこちに流出しているので、彼らを取材することで何とかイラクの中で何が起きているのかを知ろうということだ。

だんだんと北朝鮮取材に方法が似てきた。

去年10月、ちょうど核実験直後に僕は観光客を装ってピョンヤンに行ったが、言うまでもなくピョンヤンに行っても、北朝鮮の人々が何を考えているか、国内の状況がどうなっているのかはわからない。僕にずっと付いて来た監視員が「観光スポット」を熱心に案内してくれただけだ。夜中に酒を飲みながら、その監視員と金正日体制の是非について激論ぐらいはできたけれども。

したがって、国境を越えて中国に逃れた難民やそのほかの国に逃れたいわゆる「脱北者」に話を聞くことで、北朝鮮の中で何が起きているのかを探るという方法がメディアの取材方法として定着した。70年代後半のカンボジアのポルポト政権時代にも、タイ国境に逃れた難民の取材から「カンボジア大虐殺」の実態が少しは明らかになった。

そうすると、「あえてバグダッドにこの状況で入らなくても別にいいじゃないか」という声が、外からも自分自身の中からも聞こえてくる。

しかし、やはり、それでも、何がどうわからないのか、何がつかめないのか、「現場でのその『わからなさ』を知っておきたい、肌で感じておきたい」と思う。さらに、何かを「わかったつもり」になることが最も怖い。誰かが撮った映像、写真、記事から「こんなことが起きている」とわかったつもりになっている。二次情報、三次情報ばかりがイラクから世界に飛び交っている。実際には、ここで原稿を書いたりリポートしていても、正直あまり確信を持って言えないことの方が多い。

「何かが起きている」映像や写真からは「何が起きていないか」はわからない。「何が映っていないか」はその現場に人間がいないと確認できない。世の中で起きていることを、すべて等しく均等には映像化も活字化もできない。

イラクに最近行ってもいないのに、「イラクでは…」と話をしたり、何年も前の昔話ばかりをするのは居心地が悪いし、フリージャーナリストをやっている立場上、マスメディア批判だってやりにくいし…。そして、いったん現場を離れると際限なく離れてしまうという不安がある。

「またいつか…」「もう少し状況がよくなったら…」「自分で外で取材・撮影ができるようになったら…」と多くの人が考えているが、イラク人が語るように状況は悪くなる一方だ。このままでは当分無理だ。「当分」が「永久」にさえ思えてくる。「いつか…」なんて、いったい「いつ」になるのか誰にも予測できない。そして、その「いつか」が来たときは、ひょっとしてみんな死んでしまっているとさえ思えてくる。

去年も確か書いたと思うが、バグダッドでずっと、永久に変わらないのは美しい夕陽だけかもしれない。今日は一段と格別だ。一人でそれを眺めて日が暮れる。今日でバグダッドに入って10日が過ぎた。一日が本当に長い。


3月21日撮影=旧大統領宮殿の向こうに陽が落ちていく

…………………………………………………
綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2007-03-22 04:06  nice!(1)  コメント(5)  トラックバック(0) 

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コメント 5

らっ子

米軍統合参謀本部で作戦を担当するバーベロ少将が、20日国防総省で記者会見し、バグダッドで18日に、油断させるため子どもを乗せた自爆テロがあったと報告したそうです。
http://www.sankei.co.jp/kokusai/middleeast/070321/mda070321001.htm

真偽のほどは、といぶかしく思いながらも、いずれにしてもやりきれない思いがします。
by らっ子 (2007-03-22 18:40) 

らっ子

>しかし、やはり、それでも、何がどうわからないのか、何がつかめないのか、「現場でのその『わからなさ』を知っておきたい、肌で感じておきたい」と思う。さらに、何かを「わかったつもり」になることが最も怖い。

私は、昨日21日のWorld Peace Now のイベントに参加しました。イラク戦争開戦前の同じイベントでは4万人集まりました。昨日は2000人とか。この人数は効果的な反戦の活動とは言えないでしょうが、それでもイベントに参加することで、今まで見たことのない公安の人数とか、街の空気、微妙な変化を感じることができました。

知識も大事ですが、感覚的な実感はより貴重な情報だと信じています。綿井さんの報告は、とても貴重な情報源だと思い、ブログでも紹介させてもらっています。くれぐれもお気をつけて、レポートをよろしくお願いします。
by らっ子 (2007-03-22 18:58) 

奥山

イラクの現場での取材が、とても困難だと言う状況が、21日の野中さんの講演でよくわかりました。綿井さんがイラクの現場にいるから、具体的にどのように取材が困難なのか、ということが私達に伝わった。空港からホテルまで行くのにも護衛をつけなければならない状況で自由に取材ができないなど。
長崎では、20日のニュース23で綿井さんの特集が見れましたが、テレビ東京の放映は見れません。(野中さんから講演会の時見せてもらいました。そこで、今のイラクの状況を映像で少し知ることができました。)
「イラク市民の側からの報道が圧倒的に少ない」そんな中でイラク市民の側からの報道を姿勢とする綿井さん達は、イラク戦争参戦国日本のメディアの唯一の良心だと思う。もし、綿井さんがイラクに入っていなければ、きっと、私達は、「取材が困難なほどイラクの状況が悪化している」ということすらわからない。簡単に情報操作されてしまうし、イラクのことなんて終わったことになってしまうだろう。綿井さんがイラクに、現場にいるから、かろうじて「イラク市民の側からの報道」があるので、私達にとって綿井さんがイラクの現場にいる意味ってとても大きいと思いますが。
by 奥山 (2007-03-22 22:34) 

ayu15

綿井さんの
   「現場でのその『わからなさ』を知っておきたい、肌で感じておきたい」と思う。さらに、何かを「わかったつもり」になることが最も怖い。
というのが、すごいと思いました。
「なにがおきているか」を求めておられる綿井さんは、すごいと思います。
by ayu15 (2007-09-01 11:38) 

バリ島観光.com

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by バリ島観光.com (2009-05-17 18:57) 

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