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「世直し」 広島にて

▼月刊「創」9・10月号(発売中)
http://www.tsukuru.co.jp/gekkan/saisin.html
「これでいいのか!?光市母子殺害裁判報道」文・綿井健陽

※公判後の弁護団記者会見の模様を、
「アジアプレス・ネットワーク」と「YAHOO動画ニュース」サイトにて掲載しています。
http://streaming.yahoo.co.jp/p/t/00348/v01642/

前々回6月の公判からいくつかに分けて順番にアップされています。まもなく前回7月公判後の会見もアップされる予定。

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今年の8月15日は、例の光市の裁判関係の取材もあって広島で迎えた。今月は公判はないが、広島高等裁判所近くの広島検察庁が入る建物に大きな垂れ幕が掲げてある。

「平成21年5月までに裁判員制度が始まるんじゃと!? みんなで裁判に参加しようや~!!」「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します。」

法務省・広島検察庁が呼びかけるこの垂れ幕を見て、僕は少し怖くなった。いま発売している「創」の原稿の中でも書いたが、いまのこの国の状況だと、「裁判」の文字が僕には「私刑」(リンチ)におぼろげに見えてくる。「私の視点、私の感覚、私の言葉」に一見異議はない。しかし、それは何を基準に、何を拠りどころにした自分の視点・感覚・言葉なのだろうか。その基準や拠りどころがもし間違っていたら、それこそどうするんじゃと?

先日、東京都内の普段行かない書店にちょっと立ち寄ったところ、壁には「万引きは警察、家族に通報します。 店主」という貼紙があった。こういった貼紙は今ではどこでもあるが、そこの書店の貼紙には、その文の前に「世直しのため」と前書きがしてあった。

「世直し」。恐ろしい言葉だ。

しかし、よくよく周りを見渡してみると、憲法を改正したい人たちも、教育基本法を改正したかった人たちも、少年法の改正も、安倍晋三のよく言う「戦後レジームからの脱却」も、要は「世直し運動」といえる。「これまでの世は間違っていた。だからまず憲法も法律も変えてから、日本人の心も教育も、みんなで世直ししましょう」ということか。政治家はともかく、お店の人やご近所の人たちがこうした「世直し」を訴えるようになると本当に恐ろしい。怖い。わしゃ協力せんぞ。

でも、広辞苑を見ると、「世直し」の言葉の説明の3つ目には「社会の改革。江戸中期以降に現れた、貧富の差の平均を望む風潮。豪農・豪商に対する打ちこわしや世直し一揆に発展」と書いてある。そう考えるといまの「格差社会」に対して、あちこちの分野の裾野から声が上がる動きに関しては別に「恐ろしい」ことではない。むしろ好ましいことだ。

しかし、相手が豪農・豪商、いまの政府や政権与党に対して起こす「世直し」一揆と、万引きから殺しまで個々の犯罪に対して抱く「世直し」の感情は意味合いが異なると思う。

この光市の裁判に関する世の反応を見ると、「絶対多数の世論から生まれる『集団的正義感』」とでも言うべき動きには、わしゃ絶対に寄り添わんぞ。参議院選挙の結果を見てもよくわかるように、世論とテレビは気まぐれだ。いつもではないが集団で暴走することもある。そして集団暴走したときには手がつけられないこともある。

世論がハンドルをにぎって、テレビが暴走するのか?
テレビがハンドルをにぎって、世論が暴走するのか?
どっちが先なんだ?
で、誰が止めるんだ?

この国のテレビの暴走を世論が止められるかどうかについては確信がない。
しかし、この国の世論の暴走はテレビだけが止められると僕は思っている。

僕にとって、世論は当分の間は「敵」だな。しかし、わずかに、少しだけだが、この裁判をめぐる動きに関しては楽観もしている。それは実は僕だけではない。

「映画で世界は変えられなくても、人々の考えは変えることができる」(読売新聞5月5日付)。いま各地で上映されている映画「それでも生きる子供たちへ」http://kodomo.gyao.jp/intro/ の製作者・監督の一人、ステファノ・ヴィネルッソさんはそう語る。

そうか。そうだな。世論とか、国民とか、世界とか、国家とか、地球とか、大きく広げてしまうと途方もなく高い「壁」になってしまいそうだが、「誰か一人」の意識ぐらいは、「誰か一人」ぐらいの力でも、映像や写真や文字や声や行動で、何とか少しずつだが変えることができる。いや、そうでなければこの世は救いようがない。

以上、毎夏恒例の「愛は地球を救う」キャンペーンとは一切関係なし。「夏の電波の無駄使いはもうやめましょうよ」と誰か一人くらい言おうよ。

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2007-08-16 19:46 

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