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バグダッドからの訃報

▼4月28日(金)午後8時~(当日再放送あり)
CS放送「朝日ニュースター」http://asahi-newstar.com/program/shinsou/ 

「ニュースの深層」出演~バグダッド最新現地報告

▼先月、共同通信から配信した原稿が以下のサイトで読めます。

http://db.okinawatimes.co.jp/cgi-bin/search.pl?data=NEWS/2006/03/20/20060320M006-01-02.text&query=%96%C8%88%E4%8C%92%97z&dbname=/data2/INDEX/NEWS&format=long&year=all&month=all&nextskip=&nexttop=&subid=2

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映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」が封切りされたのが昨年の4月23日だったから、公開からちょうど一年を迎えた。封切りを直前に控えて、HPに以下のようなことを当時書いた。

『(前略)イラクで取材を03年3月に始めてからは、2年がかり。その間に、イラク戦争の死者を数える「イラク・ボディカウント」の数字は2万人を超えている。「その結果、大勢の犠牲者が出ただけじゃないか」。映画の最後のシーンで、アリ・サクバンはそう話している。同じく、アリ・サクバンはこうも続けて話している。「それでも日々は続いていく」。この後に、何が続くのだろうか。何を続けるのだろうか。』http://www1.odn.ne.jp/watai/050423.htm

あれから一年、バグダッドから思いもかけない訃報が届いた。

映画「Little Birds」に登場するアリ・サクバンさんの実弟ラエド・サクバンさん(31歳)が、何者かに射殺された。先週サクバン本人からアジアプレス大阪事務所に電話が入り、その後バグダッドにいる通訳がサクバンに確認したところ、それは本当だった。

4月5日バグダッド市内の市場で、ラエドさんが経営する野菜を売るお店の前で、その前の道路を通った車から突然5発の銃弾を浴びて殺害されたという。その近くにはサクバンもいたというが、彼は奇跡的に無傷で助かったが、彼の目の前で、弟が殺害されたということだ。そのお店では毎日サクバンも働いていた。先月、私がバグダッドにいたときも、サクバンと弟が一緒に働いていた。写真下参照。
市場で野菜を売るサクバン。この場所で弟のラエドさんが射殺された。(06年3月撮影 バグダッド市内で)

サクバンの弟ラエドさんとは以前に僕も会っている。映画のシーンにもあるが、サクバンが米軍キャンプを訪れて自宅に帰ってきたところ、ちょうどラエドさんが遊びに来ていた。写真下の左にいるのがラエドさん(03年7月撮影 バグダッド市内のサクバン自宅にて)

サクバンはイラクでこれまで起きたすべての戦争に人生を翻弄され、家族を失い、そしてまた現在のイラクの「内戦状況」のなかで弟を失った。サクバンの実兄2人は87年にイラン・イラク戦争で死亡。当時イラク軍兵士として徴兵されていた。90年イラクがクウェート侵攻時、サクバンは徴兵中でクウェートにいた。そして03年のイラク戦争で3人の子どもたちを目の前で失う。3人の子どもたちが死亡したのがバグダッド陥落の翌日の03年4月10日。そしてその3年目の命日を迎える前の4月5日に目の前で弟が射殺された。

何という「めぐり合わせ」なのか。だが、これは彼だけに「不運」「偶然」が重なっているのではない。

3月にバグダッドを訪れたとき、サクバンも、クラスター爆弾で負傷したハディールも、彼らの周囲で襲撃や殺害事件が起きていたため非常に脅えていた。→http://blog.so-net.ne.jp/watai/2006-03-26 「バグダッドの街は市民にとって、本当にあらゆる場所で、「死」がすぐそこで待ち構えている最前線だ。」と書いたが、彼らだけではない。他の人たちも確かに脅えていた。誰が、何の理由で、いつ、どこで殺されるか、まったく予測がつかないからだ。

先日、知り合いの記者の方が「イラクはあと10年はかかるだろうな」と話していたが、その10年の間にどれだけの人が死ぬのか。日本にいるとイラクの中の状況が実感しづらいが、正直だんだんと手がつけられなくなってきた感がある。

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2006-04-27 03:10  nice!(2)  コメント(4)  トラックバック(2) 

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コメント 4

incrocio

「誰が、何の理由で、いつ、どこで殺されるか、まったく予測がつかない」ことは、現在の日本でも当てはまるかもしれないですね。「殺され方」が違うだけであり、むしろ戦争と違って、人に危害を加えるものが仮面を被って潜伏している方が恐いともいます。
by incrocio (2006-04-28 05:55) 

ちゃこ。

初めて書き込みをします。私は綿井さんに続けるようなジャーナリストになりたいと思っています。綿井さんが取材されてきた方、そして、罪もない身近な人が殺されなければならなかった現状。とても痛く思いました。自分の力なさに悔しく思います。一人でも犠牲者が減らせるように、私が出来る事を模索したいと思います。
by ちゃこ。 (2006-04-28 16:17) 

T

ブッシュ大統領に会った横田早紀江さんが先ほどTVで話していました。彼は「人間の尊厳と自由について話す時間がないほど忙しくはありません」と言ったそうです。しかし、ブッシュはアリ・サクバン氏にも面と向かって同じように言えるでしょうか。たぶん言えるのでしょう。一昨日講演した辺見庸氏風に言えば「単純なバカ」ということでしょう。こんなものを頼るしかないのでしょうか、日本は。
辺見氏は、オカシイことに対してせめて「小指の先からちょっと血を流すくらい」の覚悟は持って対抗しようじゃありませんかと唸っていました。
by T (2006-04-29 14:55) 

TAKAHASHI

はじめまして。
今しがたLittle Birdsを拝見させていただきました。
どちらにコメントを残して良いのかわからずこちらに失礼します。

後悔  国内外の政治、紛争、あらゆる事柄に関心を向けず、
なんのアイデンティティも持たずに生きてきたことを深く後悔しました。
そして日本がしていること、アメリカがしていること、イラクがしていること、
さまざまなことに無知・無関心であったと、とても情けなくなりました。

この映画にあることがすべてではもちろんないと思いますが
この戦争にかかわるすべての国の人々がこうした映像を通して
情報を手にするべきで、いかに日本が傍観者であったかを痛感しました。傍観者にさえもなれていなかった自分が恥ずかしいです。

これほどに戦争という悲劇を深く考えるきっかけになり
見て本当によかった、と感じています。
ありがとうございました。

乱文で大変申し訳ありません。
これからも活躍を期待しています。
by TAKAHASHI (2006-05-26 15:19) 

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