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【3月12日=続・戦火のバグダッドから その2】

バグダッドの夜は長い。

午後8時から翌朝6時までの間は車の通行が禁止になっている。実質的には車だけでなく「外出禁止令」に近いので、夕方5時ごろになるとみんな家路を急ぐ。日没は午後6時半ごろだが、去年よりも家に帰る時間が一段と早くなったようだ。そこから長い夜が始まる。

昨夜は暗闇の中で相変わらず銃声が時折響いていた。誰かの発砲というよりも、何やら「銃撃戦」のような交錯する音が何度か遠くから聞こえてくる。宿泊しているパレスチナホテル周辺は昨年末から警備の管轄がイラク軍に移って、米兵の姿は完全に消えた。去年米軍の装甲車が一台ずっとあった場所には、代わりにイラク軍の装甲車が止まっている。米兵がたくさん集まる場所はそれはそれで確かに危険で怖いのだが、イラク軍だけになるとそれもそれで頼りなく感じてしまう。イラクの治安状態も同じ様相だ。

このホテルに以前は大勢常駐していた欧米メディアもこの2年間で次々と去っていって、いまはついにAPTN(AP通信のテレビ部門)だけとなった。ほかはいくつかアラブ系メディアがいるだけ。去年はいたアメリカのFOXニュースも移動した。人の出入りも極端に少なくなって、昼は閑散、夜は不気味なほど静かだ。使われている部屋は昼間で3割ほど。夜はもっと少ないだろう。夜に電気がついている部屋は数えるほどだ。一目で外国人とわかる人は、このホテルでは僕のほかにいまはいないと思う。

バグダッド市内南部にある「アル・ハムラホテル」という場所が、代わって外国メディアの集まる場所となった。最初はそこに泊まろうかとも思ったが、逆に普通のイラク人の出入りが難しいのでやめた。

さて、心配していた映画「リトルバーズ」の主人公アリ・サクバンと1年ぶりに再会できた。

彼の住んでいる地域は掃討作戦が行われているサドルシティーに近い。僕のイラク人通訳2人は去年は車で行って訪れることができたが、今では彼らでさえも危険で行けなくなった。そこで、彼の住んでいる地域の人を探し出して訪れてもらった。そして、ラッキーなことにホテルまで彼を連れてきてくれた。

サクバン自身は何とか元気そうで安心した。妻と二人の子どもも大丈夫だという。やはり携帯電話を落としてしまい、自宅の電話はずっと調子が悪いようだ。彼には新しい携帯電話を買ってあげた。昨年4月、彼の弟が彼の目の前で何者かに射殺されたのだが、その話はあまりできなかった。
http://blog.so-net.ne.jp/watai/2006-04-27 

ただ、「血まみれの弟を、この手で病院に運んだんだ」と教えてくれた。2003年に空爆で亡くなった3人の子供たちも彼が両手に抱えていくつもの病院を当時回ったのだから、みんな彼の手の中で死んでいったことになる。いま彼は殺害された弟が営んでいた店のすぐ近くで、週3回ほどサンドイッチを売っている。

今日は夕方になってようやく彼と会えて、話をゆっくり聞く時間もなく、慌しい再会だった。しかし、ともかく無事を確認できたのでよかった。彼がいま何をしているかよりも、この状況では「ともかく無事」がいちばん重要なことだから。


3月12日=バグダッド市内のパレスチナホテルで

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2007-03-13 03:29  nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

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