【ベイルート(レバノン)発 その1】
7月19日(水)午後(現地時間。日本からマイナス6時間)、紆余曲折を経てベイルートにたどりついた。
本当はサマワ取材を予定して、一週間前(12日)に日本を出てからその準備をアンマンで進めていたが、イラク入国と現地の護衛の算段が結局つかずで、残念ながら今回僕はサマワ行きは断念した。しかし、知り合いのジャーナリスト2人はいまちょうどサマワに入っている。
「陸上自衛隊がサマワに何をもたらしたのか」の検証を、政府・防衛庁・自衛隊の「広報・PR」ではなく、自分なりの「報道」で果たしたいと思っていたので今回は本当に残念だが、よく考えると自衛隊が「撤収直後」の時期よりも、もう少し後の方が現地の取材時期としてはいいかもしれない。みんながサマワのことなど忘れたころにまた来よう(これまでのサマワの自衛隊に関する原稿や報告は拙著「リトルバーズ」とDVD版「リトルバーズ」の特典映像に収録している)。
それで、僕は急遽予定を変更して、空爆が続くベイルートに向かうことにした。
いまこちらの地域は「第何次」と数えるべきだろうか、「中東戦争」が再び起こっているような状況だ。http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/middle_east_peace_process/
イスラエル軍がレバノンに攻撃、
イスラエル軍はパレスチナのガザ地区にも侵攻、
イラクはずっと混乱、場所によっては「内戦状態」
アメリカとイスラエルがやることはいつも同じで、同じような経過と結果だな。
空爆、恐怖、破壊、攻撃、侵攻、制圧、占領、弾圧、混乱、内戦…
ソ連侵攻後のアフガンも同じで、最後は去っていったとしても、現地はその後も収拾がつかなくなってなかなか立ち直ることができない。戦争は「外側」からの攻撃で始まっても、途中からは「内側」にも深く広がっていく。
さて昨日(19日)アンマンからダマスカス(シリア)を経てレバノンに陸路で入ると、国境を越えてすぐに僕の車の運転手は迂回ルートに回った。英語が話せないので最初は「どこかに誘拐されるのか?」というぐらい辺鄙な道を進んだが、結局最後はちゃんとベイルートにたどりついた。後から別の人を介して聞くと、「幹線道路はイスラエル軍が狙っていて危険だから、安全な道をちゃんと通ってきたんだ」と自慢げに話していた。
しかし、それでも途中の道では軍用トラックが空爆で炎上、黒煙を上げていた。
以下の写真参照
(7月19日午前撮影=レバノン中部)
ベイルートはまったく初めて来る街だ。
「ゴルゴ13」を読んでいたわけでもないのに、「ベイルート」という地名にはなぜか特別な響きを感じる。大学生ぐらいのころ、一度は行って見たい都市がいくつかあって、サイゴン(ホーチミン)、プノンペン、ベイルート、バグダッド、カブール、ピョンヤンだった。残るはピョンヤンか。一度は行ってみたいな。
レバノンは70年代後半から内戦状態、イスラエル軍が侵攻、90年代に入ってようやく内戦も終結して、それから10年経ってようやく以前のような美しい街並みが戻ってきたところなのにまた逆戻りか。美しい街ほど戦乱でボロボロになっていく。サイゴンもプノンペンもカブールもそうだった。
いまのベイルート市内は思ったよりも平穏で、イスラム教徒とキリスト教徒が混在して、「中東の匂い」を感じにくい街だ。
午後はシャッターを閉じるお店が多く人通りも少ないが、「この時期は暑いから昼休みでいつもと同じだよ」とハンバーガーショップの客から言われた。
海外のテレビではベイルートから脱出する外国人の様子が何度も放送されているが、欧米人が脱出するというだけでそんなに大きなニュースの扱いになるのか。どこの国の戦争・内戦でもそうだが、地元で暮らす人たちはそもそも脱出したくてもできない人の方が圧倒的に多いというのに。
市内中心部では結構みんなのんびり構えているが、昨夜午後8時ごろには大きな爆音が結構近くから響いてきた。「イスラエル軍の空爆だ」と何人かの人が叫んで路上に出てきて慌てているが、煙などは見えなかった。
こちらも何だか3年前のバグダッド空爆のときを思い出す。
あのときも爆音はあちこちから聞こえても、場所がどこなのかさっぱり不明の連続だった。それでも、やはりあの「爆音」は怖い。慣れているようで、こちらもまた「恐怖」を思い出す。レバノン市民もまた「これまでの戦争」の瞬間を思い出しつつ、これから目の前で起きていくことをただ見つめるしかないのか。
しかしこの街の物価は高いし、通訳・車もいわゆる「戦争インフレ」状態だ。紹介された英語の通訳は「この状況で危険なので一日=●〇〇米ドルだ」とこちらの足元を見て言ってくる。イラクもレバノンもどこでもカネは飛んでいくばかり。
レバノンの土地勘はないし、イラク取材と違って完全に今回は「初心者」なので前途多難だな。「おーいお茶」をティーバッグ(Tバックじゃないよ)で飲んで寝る。
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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai
映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
全国ロードショー上映中
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