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台風リポート≒選挙リポート

▼月刊「世界」10月号(岩波書店)=9月8日発売
http://www.iwanami.co.jp/sekai/
サマワ現地報告「崩壊した『友好』、自衛隊に向けられる『敵意』」綿井健陽
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おととい(7日)、「報道ステーション」でのOAが無事終了しました。何とか選挙前に放送できました。番組最初の台風リポートなどで時間がどんどん押してしまい、映像リポート後のスタジオトーク部分が予定よりもだいぶ時間が少なくなってしまいました。古館さんも「もっと話したいこといっぱいあったのに」と番組終了後に残念がってました。

テレビのニュース番組は、取材現場でも、スタジオ進行なども、みんな「時間」を気にしています。

今回は前日のうちに映像リポートの編集部分が完了していましたのであわてませんでしたが、生ニュースなどでは番組が始まってもまだ編集していて、OA直前にギリギリ間に合うことがよくあります。去年僕が取材したアブグレイブ刑務所の映像編集は、そのコーナー枠が始まってからようやく編集が終了して、合間の90秒CMの間に、編集作業場所から「サブ」と呼ばれる映像送出場所まで、ディレクターと一緒にテープを持って走りました。放送が終わってからそのディレクターに聞くと、「毎日こんな感じですよ」といいます。

テレビ局の中では、アシスタント・ディレクターや学生のアルバイトの方が、廊下や階段を走っている光景を目にします。みんなギリギリで一緒ですね。

取材現場でも一緒です。特にテレビの場合は、夕方・夜のニュース用に、現場で撮影した映像をどうやってテレビ局まで送れるのか、中継できるのか、それをみんな非常に気にしています。

しかし、この時間との闘いには「落とし穴」がいつもあります。

「早く」「どうやって」映像を送れるのかばかり考えていると、そこで何を撮るべきなのか、その映像にどんな意味があるのか、ここで何を伝えるのか、あるいは何を伝える必要はないのか、そんなことを考える時間がどんどん奪われていきます。立ち止まる時間がなくなっていきます。

先週から台風情勢とともにテレビ局で編集作業をしている合間に、各テレビ局のニュース映像をいくつも見る機会がありました。どこもだいたい同じような内容・作りで、それを見ていると今度の選挙当日も台風リポートと同じような形ばかりになるのではないかと思いました。

現在の台風の位置≒与党自民党がいま何議席取っているか、過半数を超えたか
台風の今後の進路≒各党の議席予測
各地の雨量≒各党の獲得議席数
各地の被害≒各選挙区の当落状況
被害現場前からリポート≒有名候補者の当確・落選模様を選挙事務所前からリポート

などなど、ここ数日の台風リポートと、11日当日の選挙特番がだんだんダブって見えてくるようでした。選挙だけでなく、ひょっとしてイラク戦争が始まった2003年3月~4月あたりも、こんな感じだったのではと思いました。侵攻する米軍地上部隊の位置状況、今後の戦況予測、バグダッド、クウェート、アンマン、カタール、ワシントンなど各地の中継、死者・負傷者の数…。

僕は当時バグダッドから何度も中継リポートなどをやりましたが、どのテレビ局も番組全体は恐らくこんな風な流れだったのでしょう。

テレビは「生中継」が好きで、それが醍醐味ともいえますが、実は逆に「生中継」「ライブ映像」に弱いともいえます。

なぜかといえば、サッカーや野球中継のような、行われている場所や人の数・ルールが限定されているものと違って、世の中で起きていることは「同時進行」「目の前で見える光景」「映像化できること」「カメラで追える事象」は、実は極めて限られているからです。港に押し寄せる高潮や濁流、強風は映し出せても、被害の実態やそこで暮らす人たちの「生の」姿に迫ることは実は難しいのです。

それは戦争報道でも同じですね。空爆や爆弾の煙や炎は映し出せても、その炎や煙の先の人間の姿や思いを「生で、ライブで」伝えることは難しいわけです。しかし、そこにどうやって迫れるか、映し出せるのかを「現場で立ち止まって考えつつ、徐々に前に迫ったり、ときには後ろに下がった位置から迫ったりする」ことがもっとも重要だと考えています。

「現場から中継です」
「たったいま入った映像(情報)です」
「誰々に当確が出ました」

といったフレーズが選挙特番番組で何度も流れると思いますが、「早く、正確に情報を伝える」一方で、「生」「ライブ」「中継」以外にどんな光景・映像・企画が映し出されるのかに注目しています。

というのも、今回は11日の選挙翌日早々に、ある雑誌でなぜか「今回の選挙を振り返って」という座談会企画に出席することになりました。なので、投票にももちろん行きますが、僕も僕なりの時間単位での「速報体制」でスタンバイする必要があって、さてどうしよう?「にわか政治評論家」になって、選挙の分析とか評論を僕がしてもなあ…。やっぱりここはいつも通り、どこかの現場に行くべきなのかな。しかし、いまから慌てても、それこそ「高潮が押し寄せる港からの中継リポート」になるだけか。

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
http://www1.odn.ne.jp/watai

映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
全国ロードショー上映中
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